とても、そう、とても心に刺さる(痛みを伴う)映画でした。
映像自体が主人公目線であるのか、メルヘンなシーンが挿入されて、「これは個人(すずさん)の主観である」と思わされます。
すずさんは絵を描くのが好きで上手な、ぼーっとしていることが多いのんびり屋さん。
18で見知らぬ人から見初められて、会うのもそこそこに嫁に行きます。
時代は戦前・戦中・終戦と流れます。
絵柄があれなので、苦しい戦争時代をたくましく、明るく生きた人々の話だと思って見に行ったのですが、もっと淡々とありのままが描かれていました。だからこそ刺さって痛い物語でした。
購入したパンフレットには、監督のインタビューで「これはすずさんが自分を取り戻していく話です」と書かれたいましたが、自分には「大切なものを少しずつ失っていく」ようにしか見えませんでした。
- すずさんが失った物
- 実家での安寧な暮らし
- 頭髪(ハゲができた)
- 親切にしてくれた赤線のお姉さん
- 兄(南方で戦死)
- 姪っ子
- 右手(=絵を描くこと)
- 母(原爆の直後)
- 父(おそらくは原爆症)
- 姉(物語中では死んでいないが原爆症にかかっている)
殊に、米軍の時差式爆弾によって姪っ子と右手を失ったあとのすずさん絶望が、演出の良さもあって苦しいくらいに刺さります。
自分で髪を結うことが難しく、思い切っておさげを切り捨ててしまってまで広島へ行こうとする気概は、すずさんが本来持っている強さなのでしょう。
- すずさんが得たもの
- 旦那さん(の愛)
- 養子(広島で拾った孤児)
これだけで「自分を取り戻していく」ことができるのか。その後は描かれていません。
でも、すずさんは、いまもこの世界のどこかに、いるのかもしれないですね。